序章2.地球の誕生

太陽系誕生のシナリオは、戦後、隕石や月、惑星など太陽系の探査が進むにつれ、ようやく描けるようになった。太陽系は今から46億年前、銀河系のかたすみに漂っていた星間物質(星間雲、星雲)から誕生した。互いの引き合う力(重力)で、星間物質の大部分を占める水素・ヘリウムはガス、その他の重元素はダスト(固体)として、回転しながら円盤状に収縮してゆく。中心部に集まった大量のガスは原始太陽となり、周りを回転する円盤部分からは、太陽からの距離に応じて岩石や氷の塊ができた。これらの塊は隕石や彗星のようなもので、微惑星と呼ばれる。微惑星どうしは衝突・合体を繰り返しながら、次第に大きく成長した。この過程で木星のように大量のガスを集めてできた巨大ガス惑星ができる一方、太陽に近いところでは、地球、金星、火星などの岩石惑星ができた。

月の生成は太陽系の創生期に、原始地球に火星ほどの大きさの天体が激突した結果とされる。この衝突はジャイアント・インパクト(大衝突)と呼ばれ、1975年ウィリアム・ハートマン、ドナルド・デービスによって提唱された。その証拠は、アポロ計画で採取された月の岩石の酸素同位体比が、地球のマントルのものとほとんど同一だったことだ。シナリオによると、火星とほぼ同じ大きさの天体が、地球に斜めに衝突し、天体は破壊されて、破片の大部分は地球のマントルの大量の破片とともに宇宙空間へ飛び散った。破片の一部は再び地球へと落下したが、正面衝突ではなく斜めに衝突したためにかなりの量の破片が地球の周囲を回る軌道上に残った。軌道上の破片は、一時的に土星の環のような円盤を形成したが、やがて破片同士が合体していき月が形成されたという。地球の自転軸の傾きと、初期の自転の速さも、ジャイアント・インパクトによって決まったと考えられ、月が誕生した当初は1日5時間から8時間ほどだった地球の自転速度が、現在のような1日24時間の速度になったとされる。現在でも、地球と月は1年に3.8cmずつ遠ざかり、地球の自転速度も少しずつ遅くなっていることが実測されている。

ジャイアント・インパクト直後には、地球は全体が高熱になりマグマの海(マグマオーシャン)が形成されたと考えられている。大きく成長した地球には、重力を増した分だけ、隕石がものすごい速さで衝突するようになった。この隕石の運動エネルギーが、衝突により熱エネルギーに変化し、地球は次第に熱くなっていった。やがて地球表面は千数百℃の高温になり、一面の融けた岩石(マグマ)の海となった。地球全体がマグマオーシャンになると、激しい対流が起き始め、それにつれて重い鉄は地球の中心に沈み、核となった。一方隕石(微惑星)に含まれていた物質のうち、気体になりやすいものは蒸発して地球を取り囲んだ。こうして最初の地球大気(原始大気)ができた。原始大気は高温で、主に水蒸気と二酸化炭素からなっていた。

その後、隕石衝突がおさまるにつれ、地球は次第に冷えてゆく。水蒸気は雨となって地表に降り注ぎ、ついには巨大な水たまり(すなわち原始海洋)が誕生した。一度海洋ができると、水に溶けやすい二酸化炭素は海水に溶け、大気中から減少する。そのため大気の温室効果も弱まり、ますます地球は冷えてゆく。現在地球で発見されている最古の堆積岩は38億年前のものだから、少なくとも38億年前には海と陸ができていて、現在と同じような陸地の侵食と海底での地層の堆積が起きていたと推定されている。一方、地球内部は重い鉄を中心(核)に落とし、後に残ったマグマオーシャンが冷え固まってカンラン石のマントルができた。マントルは地球体積の8割以上を占める。マントルの表層にはさらに軽い物質(玄武岩やカコウ岩)が薄皮をつくり地殻となった。その後、核は外核(液体鉄)と内核(固体鉄)に分化し、外核(液体鉄)の対流(電子の動き)は地球磁場の原因になっている。また、現在に至るまで地球はマントル対流と呼ばれる、ゆっくりとした大きな対流を続けている。マントル対流は地球が熱を失ってゆくプロセスであり、この対流がプレート運動、火山、地震などの原動力になっている。
水に溶けた二酸化炭素とカルシウムイオン(Ca2+)が化合した炭酸カルシウム(CaCo3)が海底に沈殿堆積してできた岩石が石灰岩だ。この過程は、後にサンゴなどの生物が自分自身の骨格や殻としてCaCO3を用いる生物の作用として進行した。これらの生物が死ぬと骨格や殻は腐らずに海底に次々に堆積し、やがて石灰岩になる。

地球史は、大きく冥王代(46〜40億年前)・太古代(40〜20億年前)・原生代(20〜5.7億念前)・顕生代(5.7億年前〜現在)に分けられる。冥王代は地球誕生と核・マントル分化、40億年前にプレートテクトニクス開始、20億年前最初の超大陸、5.7億年前以後はさまざまな化石が産出するようになり、これに基づいて細かな時代区分がなされる。

さて、原始生命は地球にできた物質の化学変化により誕生したとする考え方(化学進化説)と、宇宙から飛来したとする考え方があるが、現在では前者の考え方が一般的だ。現在発見されている最古の化石は35億年前のもので、原始生命は40〜35億年前頃の海の中で誕生したと考えられる。ミラー(米)は原始地球を仮想的に再現した実験装置の中で、放電(火花)のエネルギーによりアミノ酸が生成することを確かめた(1953年)。また宇宙や隕石にも簡単な有機物があることが分かってきた。こうしたことから、簡単な有機物は無機物の化学反応により案外簡単に生成されるらしいことが分かってきている。

地球で最初に大規模な光合成を行ったのはラン藻(シアノバクテリア)と呼ばれる原核生物だ。ラン藻はストロマトライトと呼ばれる一種の石灰岩を化石として残すことから、その存在が知られる。光合成の排気ガスであるO2は、最初は海水中の鉄イオン(Fe2+)と化合して、酸化鉄Fe2O3になり海底に沈殿した。このようにしてできたのが縞状鉄鉱層で、現在重要な鉄鉱石となっている。

光合成(6CO2 + 6H2O + 光エネルギー → C6H12O6 + 6O2)とは二酸化炭素と水に太陽エネルギーを付加して、より高エネルギーの有機物(ブドウ糖)を合成するしくみだ。言いかえると光合成は太陽エネルギーを、使いやすい化学エネルギーの缶詰に仕立て上げるものだ。光合成により生産された有機物の一部、例えば枯れた植物やプランクトンが地層に埋もれて、地下に閉じこめられたものが石炭や石油(化石燃料)だ。このようにCO2は地層の中に蓄えられ、その分だけ大気からは取り除かれることになる。

光合成で作られた酸素(O2)は他の物質と反応しやすく、生物にとってはもともと非常に危険な物質だった。そのため多くの生物が絶滅したと考えられている。そこで生物はいわば毒ガスの酸素に抗してさまざまな適応戦略をとった。大事なDNAをO2から守るため、DNAを膜で囲んだ(細胞の核)。またO2を利用して、よりエネルギー効率の良い代謝(酸素呼吸)を始める細菌も現れた。このような酸素呼吸細菌のあるものは、他の大きな細胞中に入り込み、やがて一つの細胞になった。実は細胞中で酸素呼吸を担う小器官ミトコンドリアの起源は、このように酸素呼吸細菌であったと考えられる(マーギュリスの提唱した共生説)。このようにして、より複雑な構成と機能をもつ細胞(真核細胞)が誕生したと考えらる。最初の真核細胞は単細胞生物だったが、やがて多細胞生物へ、そしてより複雑で高度な生物である動物や植物へと、爆発的に進化していった。
また、O2分子の一部は上空でオゾン(O3)層になり、地球大気に成層圏が誕生した。このため、地表に有害な紫外線が届かなくなり、後の生物の上陸を促した。

8億年前〜6億年前、極から赤道まで地表全体が氷床に覆い尽くされるスノーボールアース(全球凍結)と呼ばれる極度の寒冷期が2度訪れたと推定されている。この説は1990年代終盤より支持を得てきており、氷河堆積物や縞状鉄鉱床などの地質資料が証拠とされている。凍結終了後のエディアカラ生物群(大型の軟体性の生物群、大部分がカンブリア紀の始まる前に絶滅した)やカンブリア爆発などに結び付けて考える向きも多い。

顕生代は、古生代(5.7〜2.5億年前)・中生代(2.5億〜6500万年前)・新生代(6500万年前〜現在)に分けられる。これをさらに分けると、次のようになる。

古生代 カンブリア紀 5.7億年前カンブリア爆発(海洋生物の爆発的増加)、最初の魚類も登場
オルドビス紀5億年前淡水生物登場・サンゴ登場
シルル紀4.4億年前最初の陸生植物と昆虫の登場
デボン紀4.2億年前昆虫の繁栄、魚類繁栄、両生類登場・肺魚登場
石炭紀3.5億年前アンモナイト繁栄、森林の出現、最初の爬虫類登場
ベルム紀2.9億年前爬虫類繁栄
中生代三畳紀2.5億年前恐竜の登場
ジュラ紀2億6百万年前鳥類と哺乳類の登場、顕花植物の出現、超大陸パンゲアの分裂
白亜紀1億4千万年前恐竜の全盛
新生代第三紀6千5百万年前ユカタン半島に直径10kmの隕石が衝突、恐竜と多くの海洋生物が絶滅、大型哺乳類登場
第四紀180万年前最初のヒト属の登場

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